オトナ女子の山小屋泊登山のすすめ

山下舞弓(モデル・登山Youtuber)

上級者向けのイメージがある山小屋泊登山。「初心者でも行きやすい山小屋もあるんですよ」と教えてくれたのは、モデル・登山系Youtuberの山下舞弓さん。今回は、「何度も訪れているほどお気に入り」という、長野県北八ヶ岳の天狗岳にある山小屋『黒百合ヒュッテ』とおすすめの登山ルートを、山下さんにナビゲートしてもらいました。

モデル・登山系Youtuber 山下舞弓さん

モデル・登山系Youtuber
山下舞弓さん

登山歴13年。2020年にYouTubeチャンネル「オトナ女子の山登り」をスタートし現在登録者数は9万人。登山・アウトドア関連の雑誌やWebメディアの出演やアウトドアメーカーとのウェア共同開発、イベントMCなど多方面で活躍中。2023年、山と溪谷社から初の著書『わたしの山登りアイデア帳』を出版。

苔むした森、岩の稜線、遠望するアルプスの山々

美しい景色を楽しめる天狗岳

天狗岳

朝7:30、登山口・唐沢鉱泉からスタート。登り出してすぐに苔むした幻想的な原生林が現れると、「苔が青々としている時期はとてもきれいなんです」と植物や風景にカメラを向けながらゆったりと歩いていく山下さん。登山道は途中、少しだけ残雪があったり、ゴロゴロとした岩の箇所が多いものの緩やかな登りが続きます。

感動した風景を撮影しながら山を登っていく山下さん
感動した風景を撮影しながら山を登っていく山下さん
天狗岳
天狗岳
北八ヶ岳らしい苔むした神秘的な森が続く
天狗岳
「山の服装もかわいいほうが気分があがりますよね」と語る山下さんのコーディネートはライトブルーのボーダーの長袖にホワイトのパンツスタイルと爽やか。登り始めの気温は7℃と少し肌寒く、軽量のドライシェルを着用
天狗岳

途中の「唐沢鉱泉分岐」で休憩をはさみつつ、登山口から約2時間で今日の宿泊地でもある山小屋・黒百合ヒュッテに到着。山小屋は標高2,400メートルに位置するものの、登山口が標高1,800メートル台なので標高差が少なく、登山口からのアクセスしやすさも黒百合ヒュッテの魅力のひとつ。

「黒百合ヒュッテはランチのビーフシチューが名物なんですよ」と山下さんが教えてくれるも、山頂から戻ってきてからにお預け。撮影日は、昼から曇り予報、翌日は雨予報と天候が崩れるため、休憩はほどほどにして山小屋に着替えなどの荷物を置き、より身軽な装備で山頂を目指します。

天狗の奥庭

黒百合ヒュッテから10分ほど登った先にあるのが天狗の奥庭。ここからは目指す天狗岳の東西二峰、東天狗岳と西天狗岳が望め、眼下には雪解け水などがたまってできた涼しげなスリバチ池が見渡せます。「あれが中央アルプスや南アルプスです!美ヶ原も見えますね」と山下さんも美しい景色に笑顔。「この先は岩場や稜線歩きになるので、さっきまでとは違う登山が楽しめますよ」と再び山頂を目指します。

天狗の奥庭
天狗の奥庭
天狗の奥庭から東天狗岳山頂までは、岩がむきだしの登山道が続く
天狗の奥庭
最後はなかなかの急勾配。途中、登山道がわかりづらい箇所も。「◯」や「×」の印を頼りに、迷ったら少し戻りながら進むこと
東天狗岳
東天狗岳

12:00、山頂のひとつ、東天狗岳に到着。「山頂についたー!」と山下さんと撮影チームから声があがり、テンションもあがります。

山頂での撮影中、しばらくすると雲が晴れて赤岳や硫黄岳など八ヶ岳連峰がお目見えし、山下さんも思わず拍手。「しっかり登った感があり、山頂からは大展望。登山の魅力が味わえる山です」と山下さんは天狗岳の魅力を語ります。

東天狗岳

もうひとつの山頂、西天狗岳に行くかを検討するも、天候とランチ時間を考慮して今回は黒百合ヒュッテへ戻ることに。ピークハントにこだわりすぎない余裕も“オトナ女子の山登り”といった感じ。「早くビーフシチューが食べたい」とはやる気持ちを抑え、ゆっくりと中山峠側のルートから下ります。

黒百合ヒュッテのビーフシチュー

13:30、黒百合ヒュッテに戻ると、おまちかねのビーフシチュータイム。「赤ワインも飲んじゃおうかな!」と黒百合ヒュッテオリジナルのワインも注文です。「ご飯が美味しいとか、お酒を楽しめるとか、ご褒美があると山を登るモチベーションになりますよね」と山下さん。山を登るだけでなく、グルメなどほかの目的とあわせて楽しむのも“オトナ女子の山登り”ならではです。

東天狗岳
山下さんが「ぜったい食べてほしい」という、肉がほほろで野菜がごろっとしている本格派ビーフシチュー
東天狗岳
黒百合ヒュッテのオリジナルワイン

登山者同士の交流も楽しい

穏やかな時間が流れる黒百合ヒュッテの山小屋泊

黒百合ヒュッテ

黒百合ヒュッテの1階には石油ストーブがあり、それを囲うテーブルで山下さんは登山者とよく交流するのだとか。この日も「次はあの山に登りたい」「あのギアいいよね!」「山小屋泊でおすすめのアイテムはこれ」などの山の話でもちきり。

黒百合ヒュッテ

16:00になると山小屋のスタッフさんから声をかけられ、2階の宿泊エリアへ。今回、山下さんは個室に宿泊。「2023年に改装してから黒百合ヒュッテに宿泊するのは初めてなんです。畳からフローリングに変わり、布団類もお部屋も清潔感があるので初心者の女性でも泊まりやすいと思います。トイレもきれいですし」と黒百合ヒュッテのおすすめ度がさらに上がったようです。

黒百合ヒュッテは相部屋のほかに、3〜5人用の個室や1〜2名用の個室もあり、女性だけのグループや、知らない人と雑魚寝に抵抗がある人でも安心して泊まれます。

黒百合ヒュッテ
黒百合ヒュッテ

18:00に夕食。メニューはこちらも人気だというハンバーグ。大皿の副菜もありボリューム満点。夕食の時間も登山者同士で会話がはずみます。

消灯時間の20:30まではのんびり。おしゃべりしたり、お酒を飲んだり、山小屋に置いてある本を読んだり。ちなみにドコモ以外の電波はつながらないので、デジタルデトックスにもなります。日常とかけはなれた時間がすごせるのも山小屋泊の魅力。

山下舞弓さんが教える

知っておきたい山小屋泊のマナー・基本のき

まず、音に注意を。意外と気になるのがビニール袋のカサカサという音です。就寝後は触れないようにするのがベター。また、朝は起きる時間が人それぞれなので、目覚ましはバイブレーションだけに設定したり、荷物の整理は寝ている人がいないスペースでするなどの配慮が大切です。

それから、山小屋では一般的な歯磨き粉や洗顔料が使えない点も注意が必要です。わたしは、飲み込んでも安全なケミカルフリーの歯磨き粉を使ったり、クレンジングにはティッシュで拭きとるだけのオイル洗顔を使ったりと工夫をしています。

2日目の下山は朝から雨

準備さえしていれば雨の山もへっちゃら

雨の山

朝食を食べた後は、下山のために荷物を整えはじめます。雨のときは、服はもちろん、荷物が濡れないような工夫も大切。「雨の日はすべての荷物を完全防水の大容量スタッフバックに収納してからバックパックにいれています」と山下さん。パックカバーをつけても、バックパックの中身が濡れる経験を多々してきたのだとか。雨の登山のときはマネしたいノウハウです。

雨に濡れた苔や岩
雨に濡れた苔や岩。昨日とは違う景色
雨の山

荷物の準備ができたところで下山スタート。上下レインウエアに防水の手袋、パックカバーと、しっかり装備をすれば、雨の登山も快適。「苔に水滴がついているのがきれい」と雨ならではの景色を楽しみながら下山していきます。すれ違う人はゼロ。「山が空いているというのも、雨の登山のよさかもですね(笑)」とも。どんな状況もしっかり準備をして楽しむ、そんな“オトナ女子の山登り”の心持ちが伺えます。

唐沢鉱泉の源泉池
唐沢鉱泉の源泉池。コバルトブルーの水と苔が美しい
唐沢鉱泉

約1.5時間で登山口であり終着点の唐沢鉱泉に到着。「下山後に温泉に入って帰れるのも天狗岳の魅力ですね」と雨に濡れた山下さんがコメント。確かに、汗を流すにも、冷えた体を温めるにも温泉は最高です。

これにて1泊2日の山小屋泊登山は終了。「日帰りでも登れる山を、山小屋に泊まり、グルメを楽しんだり、ゆったりした時間を過ごしたりしながら、2日間かけて登るのも贅沢ですよね」と山下さんは今回の“オトナ女子の山小屋泊登山”を振り返ります。

山下さんの山小屋泊の持ち物・工夫をチェック

1泊2日の山小屋泊登山なら、
ウエアや下着の着替えは持って行かない

天狗岳

荷物を1gでも減らしたいので、1泊2日ならウェアや下着、靴下の着替えは持っていかないことがほとんどです。快適に過ごせるように、その分、ベースレイヤーの機能性にこだわっています。たとえば、肌に直接触れるブラは、通気性がよく吸水速乾性が高いものを選んでいます。最近は登山中の汗冷えがなく、締め付け感がないので着心地も楽な『Dry Mold Bra』を愛用中。靴下は、ムレにくく、臭いにくいメリノウールのものを選んでいます。

また、宿泊地の標高や季節にもよりますが、山小屋は寒いこともあるので防寒具は持っていくと安心。軽量のダウンやあたたかいインナーなど軽くてコンパクトになるものを持っていきます。

  • 山小屋用の防寒具
  • 充電ケーブルやバッテリー、ファーストエイドなどもしっかり準備。ゴミ袋としてジップ付きの袋を持っていくと音もせず中身が漏れることなく便利
  • スキンケアもメイク用品も普段から愛用しているもの。試供品も活用して軽量化を工夫。フェイスパックや美容液は小分けで持っていき日焼けケアも徹底
  • 筋肉痛や疲労のリカバリー系のサプリや山小屋で楽しむお茶も持参
 

女性の山小屋泊は着替えがやや不便

女性が相部屋で着替えをするのは慣れていないと大変。山小屋によっては更衣室がある場合もありますがひと手間かかります。なので下着は着替えずそのまま過ごせるとラクです。『Dry Mold Bra』は、登山中も山小屋でも汗がすぐ乾き不快感がないのでおすすめです。長時間つけていても、つけたまま寝ても、苦しくならないところも魅力的。しかも、バストの形がきれいに出るのがうれしい。山ブラやスポーツブラにはありそうでないですよね。山でもファッションやシルエットを楽しめています。