佐藤英俊さん(寿司・割烹 鈴政 代表取締役)
寿司文化を次の時代に繋いでいく
スペシャルインタビュー vol.4
受け継がれるのには、理由がある
寿司文化を次の時代に繋いでいく
寿司・割烹 鈴政 代表取締役
山形県酒田市と東京麹町にお店を構える「寿司・割烹 鈴政」の代表取締役である佐藤英俊さんに、家業であるお寿司屋さんを継がれた理由を伺いました。
お寿司屋さんになったきっかけを教えてください。

一番のきっかけは、もちろん家業であること。
5つ上の兄がいるのですが、その兄は継ぎたくなかったんです。
私も継げとは言われていないのですが、親父が一生懸命働く後ろ姿と、育ててもらった感謝の気持ちから頑張って寿司屋になってみようと思ったんですよね。
ただ最初は、矛盾もあって、修行するまで、寿司を食べられない時期がありました。
家が寿司屋なので、あたり前に寿司が出てくるんですよ。
他の家からしてみたら贅沢に見えるかもしれないけど、子供の頃は当たり前。
子供心からするとラーメンとか他の食べ物を食べたいけれど、手をつけないと怒られるんですよね。
そううしているうちに、お寿司が食べたくなくなってしまったんですよね。
それでも、親父への憧れや感謝の気持ちが大きく、寿司屋になろうと志しました。
修行時の経験「本当に美味しいものを提供したい」

父親の元ではなく、東京の茅場町の寿司屋に修行に出ました。
当時の賄いは、前日の残り物で用意されていました。主に出てくるのは色の変わった魚。
全然美味しくないけど、朝から晩まで働いてお腹も減るし、用意されたものを食べない訳にも行かない。
本当に美味しくなかったですよ。本当に。
ただこの経験が今すごくプラスになっている。
自分がされて嫌なことは、したくない。そんな思いからお客様には、本当に美味しいものを提供したい。
当時バブルで、価格妥当性の合わない寿司を提供しているお店がたくさんありました。スーパーでもお寿司が並び、回転寿司も増えてき始めた、そんな時代でした。
山形県酒田に戻って始めたこと。本当に美味しい状態で食べてもらう丁寧な提供。

そんな時代の中で、どうやって本当に美味しいものを食べてもらえるようにするか試行錯誤しました。
東京でもランチはやっていたのですが、お店の回転を良くする為に、飯台(はんだい)に乗せて一人前づつ出すことがあたりまえでした。
しかし、一番最初に握ったお寿司と最後に握ったお寿司では味がやっぱり変わるんですよ。
そこで、ランチでも一品目づつ提供するようにしたんです。
お客様が醤油をつけないで、こちら側で醤油をつけて握りを提供する。穴子は煮立てを出したり、ウニは剥きたて、マグロは違う部位を合わせて握るなど、自ずと一つ一つの握りにこだわって提供していました。
山形は、本当に美味しい食材の宝庫です。中でも海産物は本当に美味しい。そのまま出した方が良いものもあれば、締めて翌日だした方がいい場合もたくさんあります。
光り物は鮮度が命ですが、マグロは魚体の大きさによって寝かせると脂が回って美味しくなる、甘エビは二日間たつと甘味がまして上手くなる、これは市場に足を運んで、長年食材に触っていないと分からない技術です。
寿司技術の伝承と、寿司屋が抱える課題。

初期の握り寿司は、生魚を使わなかったと言われています。穴子は煮る、海老はボイルする、今では定番となったマグロは、後からネタとして使われるようになり、油の多いトロの部分は捨てて、赤身をヅケ(醤油などの調味液でつけた切り身)で提供していました。
当時の寿司職人から受け継いできた保存食の技術は、今では味を良くする調理方法として受け継がれています。
この寿司文化を未来に繋いでいく為には数多くの課題があります。
外国人観光客はもちろんのこと、日本人のお客様も多く寿司のニーズは無くならないと思いますが、人材確保が難しいという課題を抱えています。
100人のお客様が入るキャパのお店は、観光の予約などが入れば売上が大きくなります。
大きなキャパのお店で美味しい寿司を提供し、しっかりとした接客をする人材を確保することがとても難しい状況があります。私が修行していた頃のような環境では、まず寿司屋になりたい人はいないと思うので、労務環境を変えることを、さらに求められていくことになると思います。
時代に合わせて変化をしていく

人口が減少していく中で、これからは大きなキャパのお店ではなく、小さなお店でしっかりとした仕事をしていく形が主流になっていくと思います。もちろん人気があれば大きなお店も残っていく。
この時代の中で、寿司職人になりたい若い人が増えてくれなければいけないと思っています。そういった意味では、回転寿司などの入りやすいお店が増えることは、関係人口を増やすことに繋がり、とても良いことだと思います。
江戸時代からお寿司は、時代に合わせて形を変えてきました。外に目を向けて新しい形を作っていくことが大切です。
確かな仕事を受け継ぎ、時代の中で変化しながら、寿司文化を次の時代に繋いで行けるような職人を育てなければいけないと思っています。
寿司文化を残していく
あるテレビ番組の企画で、寿司職人になりたい方がいるので、お寿司を教えてもらいたいという要望がありました。
お寿司を握りたい理由を聞くと、お寿司が好きな奥様に美味しいお寿司を握ってあげたいという純粋な気持ちでした。そこで、1日でできるところまで仕立て、奥様に食べてもらいました。
涙を流しながら奥様が食べているところ見ていたら、もらい泣きしてしまいました。

私は教える側で参加したつもりが、お寿司の魅力を改め感じさせていただく貴重な経験となりました。
仕事としてのお寿司はもちろん大切ですが、お寿司が好きな人に、技術だけでないお寿司の魅力を伝えていきたいと思っています。