阿部裕太さん(阿部酒造 六代目)
飲み手を増やす、挑戦する酒蔵作り

スペシャルインタビュー vol.3
受け継がれるのには、理由がある

新しい日本酒の継ぎ手
阿部酒造六代目

受け継がれていく本物にインタビューをする第3弾は、1804年から続く阿部酒造の六代目 阿部裕太さんに、お話を伺いました。

廃業の検討

「神戸 BREADMAN」水野真吾さん

阿部酒造は、新潟 柏崎にある小さな酒蔵です。
日本酒蔵には、外から杜氏(※1)を招聘して酒造りをするスタイルもあるのですが、阿部酒造は、代々、経営と酒造りを当主が行う一子相伝で伝える酒蔵です。
私の祖父にあたる先々代の時は、新潟の日本酒が売れる時代でした。そこで、先々代は造る側ではなく売る側に転換しようと考え、お酒を売る方針の中で、父が五代目を継ぐことになりました。
(※1) 杜氏とは、酒蔵の中で、酒造りにおける最高責任者。

ところが、2000年代に入り次第に新潟の酒が売れない時代となり、廃業を検討しました。
その時に、廃業をするなら3年間だけ私に酒造りをさせて欲しいと懇願し、六代目として阿部酒造に戻ってきました。

元々、酒蔵は儲からないと言われて育ったので、酒蔵に対して全く良いイメージはなく、継ぐつもりはありませんでした。
新卒で「ぐるなび」という飲食店の情報を取り扱うメディアで働いていたのですが、私は当時酒蔵をはじめとしたメーカーと飲食店をつなぐような仕事を行う『法人営業部』という部署にいました。
飲食店も回りましたが、僕の部署は、生産者や加工者の方を実際に回ることも多く、作り手さんの魅力を感じていました。
やはり実家が酒蔵ということもあり、色々な作り手の方とお会いする度に、自分だったら違うやり方をするだろうなとか、色々考える訳です。
そんな思いが募っていった時に、廃業を考えていると父から聞き、手を上げることを決意しました。

飲み手を増やす挑戦をする酒蔵づくり

「神戸 BREADMAN」水野真吾さん

戻ってきた時の阿部酒造は、30石〜40石程度と日本酒蔵としては非常に少ない量しか作っていませんでした。その為、30年くらい設備投資も止めていました。
私が継ぐ時は、借金が少なかったこと、そして元々廃業を考えていたこともあり、歴史はありますが、抑えつけられるものが何もなく、変化を恐れずに新しいものに取り込める環境でした。

日本酒造りを始めてからは色々と感じることが多かったです。
1年目の一番大きなトピックスとしては、カネセ商店という新潟 長岡の大きな酒屋さんから発注をいただけたことでした。カネセ商店さんを皮切りに順調に行くと思ったのですが、そんな甘いこともなく、いろんなことを1〜2年経験し、この時に色々と考えさせられることもありました。

また、好みもあるとは思いますが、僕の周りの友人ですら、好き好んで積極的に日本酒を飲む、みたいな光景は見なかったんです。だとしたら、まず飲み手を増やさなければいけないと強く感じたんですよね。

これが原体験となり、新しい層を取り込む為に、味わいを変えたり、エチケットを変えたり、低アルコールやノンアルコールのドリンクを出すなどを構想しました。
それが2年目に出した★(スター)シリーズでの挑戦につながりました。
日本酒の味わい・香りの幅広さを知って欲しく、教科書通りの造り方から逸脱させたレシピで、今までの日本酒にはない魅力を感じていただける日本酒造りにチャレンジしました。
日本酒らしくない取り組みでしたが、こちらもしっかりと発注をもらい、その時には、先代と約束した3年の猶予のことは、考えずに次の取り組みのことばかり考えていました。

世界に羽ばたく日本酒の作り手を育てる

「神戸 BREADMAN」水野真吾さん

飲み手を増やす為にやらなければいけないことは、新しいファンを作る酒造りだけでなく、日本酒を取り巻く関係人口を増やすことが重要だと思っています。そこで阿部酒造では、通常の雇用とは別に、研修生制度という新しい門戸を開ける取り組みをしています。
研修生は、酒蔵を作りたいという独立を視野に入れた人しか雇いません。
日本酒を世界に伝えていきたいという志を持っていても、学べる場所が少ないのが現状です。そこで研修制度を設け、限られた時間で、次のステップに行くサポートをしています。もちろん彼らには、特に厳しく接しています。

今卒業生は、博多のLIBROM Craft Sake Breweryや、福島のhaccobaなど、新しい酒造りをする蔵を立ち上げたり、酒造りに参加しています。コロナの影響があり、まだ海外にはいけていませんが、2人とも海外に酒蔵を作る夢を持っています。

今年は卒業生が、Sake Brooklyn Brewing Companyという会社でニューヨークにて、新しい酒蔵の立ち上げに参加します。
僕たちの飲み手造りは、日本だけでなく海外まで広がっています。

受け継がれ、受け継ぐということ

「神戸 BREADMAN」水野真吾さん

斜陽産業である酒蔵を受け継ぐことは、斜陽産業に留まらないように、変化を起こし、新しいことにチャレンジしなければならないということだと思っています。
今、受け継いだ阿部酒造は、そのチャレンジが形になり、結果を積み重ねることができ、実際に自分がやりたいことが実現できていると実感しています。
そして、それを更に受け継いでいくことも重要だと思っています。
これからも阿部酒造では、志のある人に酒造りの勉強の場を提供し、1人でも多く飲み手を増やしていければと思っています。

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